「ありがとう」の原点
わたしたちに必要な糧を今日与えてください。( マタイによる福音書第6章11節 )
私は、誕生日の感謝礼拝で、よく次のような教話を致します。
私たちは、毎日お食事をします。もう皆さんはお箸やスプーンを使って自分一人で食事をすることができますが、生まれたばかりの時からできましたか?そうではないですね。生まれたばかりの赤ちゃんのお食事って何でしょう。お母さんからおっぱいをもらうことです。
赤ちゃんは、まだお話しできないから、お腹が空いた時にも泣きます。お母さんはその泣き声を聴いて、「お腹が空いたのね。ほら、今すぐおっぱいあげますよ。」って優しい声で言葉をかけて、赤ちゃんにおっぱいを飲ませます。
赤ちゃんは、コクン、コクンとおっぱいを飲み始めますが、時々飲むのを休みます。その時、お母さんは赤ちゃんを見て、優しく声をかけて軽く赤ちゃんを揺すってあげます。赤ちゃんは、またコクン、コクンと飲んで、また少し休みます。お母さんはまた赤ちゃんに優しい笑顔を見せ、柔らかな声で赤ちゃんの名前を呼んで話しかけます。赤ちゃんはまたコクン、コクンとおっぱいを飲んで、また少し休んで、お母さんが赤ちゃんに笑顔を向けることを幾度も繰り返します。これが赤ちゃんのお食事とお母さんのお世話です。途中でお休みしながらおっぱいを飲むのは、人間の赤ちゃんだけとお母さんだけの、お互いに心を通わせるための、大切な営みなのです。人間が食事をすることは、ただ体に栄養を採り入れるだけのことなのではなく、赤ちゃんの時に限らず、お互いに心を通わせ合うための大切な時でもあるのです。
また、牛や馬など動物の赤ちゃんは、30分もすれば、自分で立ち上がって自分でお母さんのところに行って、おっぱいを飲みますが、動物の親子は人間のお母さんと赤ちゃんのように言葉を交わしたり見つめ合ったりはしません。
人間の赤ちゃんは、他の動物の赤ちゃんよりずっと時間をかけて、8ヶ月も10ヶ月もかけて、やっとハイハイしたり立ち上がったりするようになります。その間、人間の赤ちゃんは、毎日毎日、優しい眼差しと言葉を受けながら、お食事のお世話をしてもらって育つのです。
これは、今の子どもたちだけのことではなく、皆さんのお父さんやお母さんも赤ちゃんの時代があり、生まれてすぐに、そのお母さんであるお祖母ちゃんにお乳を飲ませてもらって大きくなったのです。その命のつながりの中で私たちは生まれ、育てられてきました。
人間にとっての食事は、単に空腹を満たすことや栄養を補給することにとどまらず、人間同士が互いに心を通わせる聖なる営みです。いつも感謝の思いをもって楽しく食事ができるように心がけたいと思います。