食欲の秋に
見よ、全地の生える、種を持つ草と種を持つ実をつける木を、すべてあなたたちに与えよう。(創世記第1章29節)
秋です。幼稚園の小さな畑でさつま芋掘りをします。実りの秋であり、食欲の秋です。
人間は一年の内で夏にいちばん夏に太りやすいのだそうです。定温動物である人間の体温は36度前後であり、その体温を保つためは暑い時期より寒い時期の方が沢山のエネルギーを必要とすることになります。涼しくなって体温と外気温の差が大きくなると体脂肪を燃焼させて体温を保つ必要が生じますから、当然その分のエネルギーを食料として体内に取り入れたくなり、秋は食欲が増加するのだと聞いたことがあります。真偽のほどは分かりませんが、秋は食べ物が美味しく感じられます。
近年、家庭での生活習慣が大きく変化し、夜更かしをして睡眠時間が不足している子どもや朝食を採らない子どもが増加しているようです。政府もこの問題を重視し「早寝、早起き、朝ご飯」というキャッチフレーズにより、規則正しい生活の必要性と朝食の大切さを訴えています。私の個人的な経験からも、朝食をしっかり採れる子どもは心身の発育のバランスも良いと言えそうです。
ある統計調査によると、学力テストの結果と朝食を採っているかどうかには高い相関関係があるということです。朝食をしっかりとっている子どもの方が圧倒的に高い学力を示すという調査結果があるのですが、それは単に高い学力の要因が朝食の栄養とエネルギーにあるということではなく、しっかりした食生活習慣のある家庭では勉強を含むその他の生活習慣もしっかりしている傾向があるということなのかもしれません。当たり前のことなのですが、朝食を採るゆとりのある家庭の子どもは、その分、親子でのコミュニケーションの量も質も高くなると言えるでしょう。
愛隣幼稚園では、一週間のうち給食の日より子どもたちがお弁当持参で登園する日の方が多いのですが、このことについても各ご家庭で積極的な意味を踏まえていただけると幸いです。
子どもたちが幼稚園に持ってくるお弁当には、各ご家庭からの大切なメッセージが含まれています。「愛情弁当」という言葉がありますが、まさのその言葉のとおり、幼い子どもたちにとってのお弁当は、子どもたちが家族と離れて過ごすときにも「自分が家族と確かな絆で結ばれている」ということを実感する大切な媒体となるのです。比喩的な表現を用いれば、お弁当の中には「その子の家庭そのものが凝縮している」と言えるでしょう。
幼稚園ではお弁当の時間になるとそれまでとは違う時が流れ始めます。みんながお弁当を開くと、その場は子どもたちの家庭が持ち込まれたようになり、会話もそれまでとは違う特有の雰囲気に包まれます。自分の好き嫌いを理解した上で各ご家庭で工夫されたお弁当は、子どもたちにとって言葉では言い尽くせない愛情が感じられるのです。どうぞ、子どもたちの食欲が増し楽しく昼食時間を過ごせるお弁当作りにご協力ください。食事は単に体内に栄養を補給する時間ではなく、幼稚園では大切なコミュニケーションの時間でもあります。幼稚園ではお弁当をいただきながら豊かな会話がたくさん交わせるように努めて参りたいと思います。
食欲の秋を心身の充実の時にしていきたいと思います。
(『あいりんだより』2007年11月)