『「基本のき」から』
わたしのこれらの言葉を聞いて行う人は皆、岩の上に自分の家を建てた賢い人に似ている。(マタイによる福音書第7章24節)
もし「園長としてどのような幼稚園をつくろうとしているのか」と問われたら、私は「奇抜なことをして目立とうとするのではなく、当たり前のことが当たり前にできていて、しかもどこか深さが違う」と思っていただける幼稚園を創っていきたい、と答えたいと思います。また、実際にこの幼稚園がそうなるように努めていきたいと思っています。
近年、商品にしても商店にしても、「特徴付け」や「差別化」が課題となっています。それは、他との違いを強調して売り込むための戦術でもありますが、時として本質とは関係ない見栄えの華やかさや形式に流され、かえって本当に大切なことを見失わせることにもなりかねません。
幼稚園は人間の成長に仕える教育の場です。その事以外に何か品物を売るのに似た園の「特徴付け」や「差別化」が前面に出て良いはずがありません。子どもたちの命の育みのために必要なこと、適切なこと、相応しいことを、日々心を込めて行っていく中で、幼稚園は幼稚園として成長し、そこに「特徴付け」も自ずと生まれ大きくなっていくことでしょう。そのような意味でも、私は「当たり前のことが当たり前にできていて、しかもどこか深さが違う」という幼稚園を育てていきたいと思うのです。
そうであれば、幼稚園でも各ご家庭でも、子育ての「基本のき」を大切にしていきたいと思います。例えば、日中は屋外でお友だちと一緒に十分に体を動かして遊ぶこと、子どもの経験を共感しながら聴くことを中心とした心の通う会話をすること、楽しい雰囲気での落ち着いた食事をすること、善悪のけじめをつけること、子どもと一緒に質の高い絵本の読み聞かせをすること、人の業を越えた大きな存在に向かって祈ること等々、子育ての「基本のき」を実践していきたいと思うのです。それは、子育てに限らず生きる上での「基本のき」であり、むしろ事柄そのものより、私たちの生活全般にいかにして「愛」を盛り込んで子どもと心を通わせるかということの大切さであると言えそうです。
子どもたちは、入園、進級して二ヶ月が経ち、幼稚園の生活にも慣れてリズムをつかみ、次第に友だち関係も広がり、表現も大きく力強くなってきているようです。子どもたちが十分に自分を表現しながら生活していけるよう、幼稚園では一人ひとりを大切にするという幼児教育の「基本のき」に絶えず立ち帰りたいと思います。どうぞ、ご家庭でも温かな心の触れ合いと生活習慣の形成という「基本のき」に努めていただければと思います。その中から、他園では真似ることのできない愛隣幼稚園の特徴が育ち、その特徴が更に私たちを育ててくれるようになると確信しています。
(『あいりんだより』2007年6月)